大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)3430号 判決 1957年4月26日

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

職権により調査するに、被告人に対する本件窃盗の公訴事実について、第一審裁判所は右公訴事実はこれを認めるに足る証明がないとして無罪の判決を言い渡した。これに対し、右判決は事実を誤認したものであるとして検察官から控訴の申立があり、原審は検察官の右控訴趣意を容れ第一審判決を破棄し、自ら何ら事実の取調をすることなく、ただ訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠のみによって、直ちに被告人に対し有罪の判決を言い渡したものであることは、本件記録に徴し明らかである。

しかし本件のごとく第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず、犯罪の証明なしとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠だけで直ちに被告事件について犯罪事実を確定し有罪の判決をすることは、刑訴四〇〇条但書の許さないところであることは、昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日言渡大法廷判決の示すところである。従って、自ら何ら事実の取調をすることなくして、無罪の第一審判決を破棄して前記のごとく直ちに有罪の言渡をした原判決は違法であって、弁護人及び被告本人の各上告趣意に対する判断をまつまでもなく原判決中被告人に関する部分は破棄を免れない。

よって、刑訴四一一条一号、四一三条により裁判官池田克の反対意見を除くその余の裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

裁判官池田克の反対意見は、犯罪の証明なしとして無罪の言渡をした第一審判決を破棄し、訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠のみにより直ちに判決することができるものと認め、被告人に対し有罪の言渡をした原判決には何ら違法はないこと、昭和二七年(あ)第五八七七号同三一年九月二六日言渡大法廷判決記載の同裁判官の反対意見及び前記大法廷判決記載の裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔の反対意見のとおりである。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例